~落書き帳「○△□」~
年老いた母を風呂に入れ、手を貸しながら母のしぐさを見守っていると、色々なことに気付きます。その一つに、手拭いの使い方があります。
湯上り用の大型のタオルなどなかった時代。手拭い(タオル)一本で用を足していました。その使い方には違いがありますが、背中を洗ったり拭いたりするときには決まって手拭いの対角の二隅を引っ張り、長くして使ったものです。
長方形の手拭い上のどの線分よりも対角線は長いからです。しかも手拭いだけに、布地が多少伸びます。街角の翁も、その昔に祖父母や両親から教わった知恵です。
他愛のないことながら、生活のひとこまひとこまに手仕事の工夫が光ります。
さて、手拭いではなく平面図形で考えてみましょう。それも、長さの等しい4本の線分をつないだだけの中身のない「菱形」を取り上げます。
対角の二隅をつまんで動かし、菱形の形を変えてみました。写真にあるのは、フィンランドの伝統工芸品「ヒンメリ」の平面版です。
1番目は正方形、つまり2本の対角線の長さが等しい場合。2番目は対角線の長さの比が白銀比、3番目は黄金比の場合を示しています。引っ張り過ぎると、ぺたんとつぶれます。
正方形のとき面積が最大であることは、一目瞭然です。高校数学で「x²+y²=a (正の定数)のとき、xy の最大値は?」という捻った形で出される問いがありますが、「術に曰く、一目瞭然」です。
年老いた母は体の隅々を洗うことはままならないものの、湯上りには手拭いの二隅を引っ張ってからひょいと背中に回します。その無駄のない一連の動作が、丸くなってしまった背中と好対照をなします。