~落書き帳「○△□」~
奥州二本松藩に仕えた磯村吉徳の著『増補算法闕疑抄』(貞亨元年)から、「今山形平の…」と始まる問題の紹介です。
山形(三角形)を写真図のように置き、頂上から股(底辺)に中鉤(垂線)を下ろします。このとき、分割された股のそれぞれの長さと中鉤の長さ(山の高さ)を問うています。
与えられているのは、山形の長登・短登・股の三辺の長さ。それぞれ4尺、3尺、5尺と読み取れます。なあんだ、また「みよこさん」ではありませんか。これなら、垂線によって左右に出来た直角三角形も相似な「みよこさん」ですから、簡単解決ですね。右下の写真にあるように、わざわざ図解しなくてもよさそうなものです。それとも、何か深い訳があるのでしょうか。
任意の三角形を意識して、和算書の図を真似てみました。ただし a≧b、したがって x≧y とします。
縦横の補助線を引いた下の図をよく見ると、
灰色を付けた長方形を共通部分とする2つの図形、
「面積 2cx の長方形」と「面積 c² の正方形」
の面積の差は、緑色の正方形と桜色の正方形の差であることに気付きました。
2cx-c²=x²-y² ……①
なるほど、これはうまくいきそうです。
上の図で左右2つの直角三角形に鉤股弦の定理を用いると、x²+h²=a², y²+h²=b² …② より、
x²-y²=a²-b² ……③
したがって、①と③から
x=(a²-b²+c²)/(2c), y=(-a²+b²+c²)/(2c)
また、山の高さh についは、②の前の式から、
4c²h²=4c²(a²-x²)=4c²a²-(a²-b²+c²)²
={(a+c)²-b²}{-(a-c)²+b²}
=(a+b+c)(a-b+c)(a+b-c)(-a+b+c)
何と、ヘロンさんの登場ではありませんか。
江戸時代の和算書で紹介された「山形の術」。その図解法は小学生にも理解できる見事なものでした。面積までは問われていないのですが、その計算の仕上げはみよこさんにお任せすることにしましょう。