~落書き帳「○△□」~
落書き「238」では、磯村吉徳の著書『増補算法闕疑抄』(貞亨元年)から「山形の術」を紹介しました。実はこの直ぐ後には、中鉤によってできた2つの直角三角形に、円と正方形を1つずつ内接させた問題がありました。そのうち、円を内接させた方を取り上げましょう。
ここでも磯村は、図を用いてその術を説明しています。原本の図は正確さを欠くのですが、言わんとしていることは説明なしでも伝わってきます。
直角三角形の鉤、股、弦の長さをそれぞれ a, b, c とし、内接円の半径を r とすると、左の図はずばり
2r(a+b+c)=4×(ab/2) …①
であることを主張していて、内接円の半径の半径がたちどころに求められます。すなわち、
r=ab/(a+b+c) …②
たとえば、a=5, b=12, c=13 の直角三角形の場合、その内接円の半径は
r=(5×12)/(5+12+13)=2
一般の三角形でも同様の「裁ち合わせ」が可能です。三角形全体の面積を S とすると、右下の図の長方形によって、①と同様の式:r(a+b+c)=2S …①´ が得られます。
この式は、以前の落書きに書いた「S=rs(ただし、2s=a+b+c)」のことですね。
直角三角形に戻りましょう。
内心から各辺に下した垂線(半径)により各辺がそれぞれ分割され、6線分に分かれますが、内2本は半径に等しいことから、
r=(a+b-c)/2 …③
が成り立っています。これも和算術としてよく知られた式ですが、
直角三角形において成立する、見かけ上異なる②と③を等号で結んでみると、
ab/(a+b+c)=(a+b-c)/2 より a²+b²=c²
あれれ、「鉤股弦の定理」が出てきましたよ。