~落書き帳「○△□」~
前回「257」の算額を受けて、十七文字、二十八文字、三十一文字に遊びましょう。
(1)俳句歳時記 三椏の花三三が九三三が九 稲畑汀子
「三椏の花を見た時に私は思わず九九を口ずさんで
いた。俳句の中に九九を使って数字を並べただけの
奇を衒(てら)った表現と思う人があるかもしれない
が、私は見たまま感じたままを俳句にしたにすぎない
のである。枝が三つに分かれ、その先に花が三つ咲
く。九九を通して花の咲き具合を想像して頂ければ
この句は成功といえよう。ともかく私はこの句が気に
入っている」―『新日本大歳時記・春』(講談社)―
(2)万葉集 若草乃新手枕乎巻始而夜哉将間二八十一不在國 作者不明
(3)孫子歌
算法統宗物不知総数 孫子歌曰
三人同行七十稀 五樹梅花廿一枝
七子團圓正半月 除百令五便得知
今有物不知総数三除余二個五除余一個七除余五個
問総数幾何
(ある数を7で割ると5余り、5で割ると1余り、
3で割ると2余る。ある数とは?)
―関孝和『括要算法』―
(1)については、作者自ら語っておられる通り。街角の数学もお気に入りの秀句です。
あえて付け加えるならば、落書き「4. 三枝のパセリ」くらいのもの。
(2)の「二八十一」は、「にくく」の意。九九を含む大陸の数学も、遣隋使や遣唐使により伝えられていたことが分かります。漢字を使うしかないとはいえ、この時代から言葉遊びがあったのですね。日本語は柔軟です。
(わかくさの にひたまくらを まきそめて よをやへだてむ にくくあらなくに )
(3)について。関孝和の業績をまとめた『括要算法』(1712)から紹介しましたが、そこで関は中国の書『算法統宗』(程大位、明1592)にある「孫子歌」を引いた上で、自身の例題を出しています。
中国剰余定理(百五減算)の歴史を辿れば、『孫子算経』(孫子、南北朝)、さらには「跨下之辱(韓信の股くぐり)」で名高い韓信(秦~前漢)の「鬼谷算(韓信点兵)」まで遡ることができるといいます。
「孫子歌」は、解法を七言絶句に詠み込んだものと思われ、
「子曰 三人行必有我師焉 擇其善者而從之 其不善者而改之」(『論語』:述而)
「人生七十古來稀」(『曲江』(杜甫))
などを踏まえているのでしょうか。